奈良時代に始まった日本の絞り染めは、辻が花・京鹿の子・有松鳴海絞り・南部絞りなどがありますが、大半の生産をしめているのが、有松鳴海絞りです。
 
有松鳴海絞り
 
 
浴衣や振袖にもよく見られる有松鳴海絞りですが、友禅染や織の着物とは一味違う深みがあり、総絞りでできた振袖などは、独特の高級感があり

「どうしたらこんな模様に染められるの?」

と、目を近づけてみたくなるものです。
 
 
今回はそんな高級感満載の絞りの代表である、有松鳴海絞りを紹介したいと思います。
 
 

有松鳴海絞りとはどんな着物?

有松鳴海絞りは、愛知県名古屋市の有松、鳴海地区で生産される絞り染めの総称です。
有松鳴海地区
 
 
絞りの特徴である凹凸により、布が肌にまとわりつくことなく、着心地が良いのも魅力のひとつなので、暑さの厳し夏の浴衣によく見かけますね。

かつては、100を超える絞りの種類があり、国の伝統工芸品にも指定されましたが、その技法を受け継ぐことが難しく、今では70種類ほどしか残っていません。
 
 
しかし現代は、日々の活動をSNSで発信する若手職人も増えて、日本はもとより世界中から有松鳴海絞りの技法に興味を示す人が表れ、再び脚光を浴びつつあります。
 
 
そんな世界から注目を浴びる有松鳴海絞りには、現在どのような種類の絞りがあるのか見ていきましょう。
 
 

絞りの種類は何がある?

全盛期には100を超える種類があると言われている有松鳴海絞りですが、現在残る絞りの種類は70種類ほどと言われています。
 
 
その中でも、下記の4種類の絞りが有松鳴海絞りを代表する柄になり、他の場所で作られる絞りにはありません。

  • 手蜘蛛絞り(てくもしぼり)
  • 三浦絞り(みうらしぼり)
  • 嵐絞り(あらししぼり)
  • 筋絞り(すじしぼり)

 
 
まずはこの4種類の絞りの特徴など詳しく見ていきましょう。
 
 

手蜘蛛絞り(てくもしぼり)とは?

染めた時の柄が蜘蛛の巣に似ていることから、手蜘蛛絞りと言われるようになったもので、有松鳴海絞りの祖、竹田庄九郎によって作られた柄の一つです。
 
着物の染めとしてだけでなく手ぬぐいや、ストールなどにも良く使われるので、一度は蜘蛛絞りを目にしたことがあるのではないでしょうか。
 
 

 
生地をかぎ針に掛けて、中心から傘を畳むように巻いていき、根元に糸を巻いて絞ぼるるのですが、下絵は描かずに職人の感覚で染められるそうです。
 
 
手で行うものを手蜘蛛絞りとよび、現在は高齢の女性2人しか職人がいないと言われる貴重な技でできる絞りの柄ですが、若い職人を中心に技法の継承を進められているそうです。
 
 

三浦絞り(みうらしぼり)とは?

 
豊後国の藩(現在の大分県)の医者の三浦玄忠の妻が、別府絞りの技法を鳴海地方に伝えたのが始まりと言われています。

生地の下から指で布を持ち上げて、糸で巻き、引っ張りながら一粒ずつ絞って行きます。
 
三浦絞りには下絵を描かない「平三浦絞り」「石垣三浦絞り」「やたら三浦絞り」や、下絵を描く「疋田三浦絞り」など種類も豊富です。
 
 

嵐絞り(あらししぼり)とは?

嵐絞とは、嵐の雨のような細い斜めの絞り柄のことをいい、よく男性の浴衣で使われているのを見かけますね。
 
嵐絞り
直径9cm、長さ4mほどの丸い棒の一方に布を斜めに巻いて、その上から綿糸をぐるぐると巻きつけて、棒ごと染液の中に浸して染めます。

別名、「棒絞り」「棒巻き絞り」とも呼ばれています。
 
 

筋絞りとは?

筋絞りとは布を縫い、ひだをとりながら巻き上げ筋を染め出すこと、あるいは、染めたものです。
 
嵐絞りとよく似ていますが、柄が斜めではないものが筋絞りといったところで、女性の浴衣に多く見られますね。
 
 
藍染の麻でできた筋絞りの浴衣は、見ているだけで夏を感じられる涼し気な柄で特に人気があります。
 

 
筋絞りの中には「養老絞り」「柳絞り」など他にも多くの種類があります。
 
 
以上にあげた4種類の絞りは大きく分けた総称で、この4種類の中にも細かく沢山の種類の絞りの種類が存在します。
 
 
さすが日本一の絞りだけあって、種類も多くそれだけの技法の継承が難しいのも納得しますね。
 
 
特に嵐絞りと筋絞りは種類も多く素人では見分ける事が難しいです柄ですが、これら有松鳴海絞りはいつかごろからあるのか歴史をたどってみたいと思います。
 
 

有松鳴海絞りの歴史

いまから約400年ほど前の江戸初期に、名古屋城築城の手伝いを命じられた、現在の大分県にあたる豊後(ぶんこ)の大名が着ていた絞り染めを、竹田庄九郎が見たのが始まりだと言われています。

その人達から技法を習った竹田庄九郎はじめとする8人で有松鳴海絞りを完成させたと言われています。
 
その後、現在の愛知県を治めていた尾張藩が門外不出の技法として、有松鳴海地区の専売制として保護したこともあり、この地に根づいたと言われています。
 
 
竹田庄九郎を御用商人に立てて、東海道で三河木綿を使って絞った「蜘蛛絞り」「手筋絞り」の手拭い(てぬぐい)を有松鳴海の特産品として売ったことが始まりです。

これが街道一の人気の品となって行き、元禄時代には絞りの浴衣でいっぱいになったそうです。
 
 
その名残もあるのか、今の時代でも浴衣と言ったら絞りが思い浮かびますが、絞りの浴衣が人気になったのは絞りが持つ独特の特徴にあります。
 
 
絞りの浴衣が人気になった理由の一つでもある、有松鳴海絞りの特徴を次に紹介したいと思います。
 
 

有松鳴海絞りの特徴

有松鳴海絞りの特徴は模様の種類の多さと、1つの工程を1人の専門の職人が担当する完全分業制によって作られる事です。
 
 
一つの反物には何種類かの絞りがほどこされている物もあり、様々な絞りの技法によりできる模様は、他の染織技法では表現できな独特な模様なのですね。
 
 
そして実際に着た時のサラリとした質感も、絞りによってできる生地の凸凹が、肌と着物の間に隙間を作るため通気性を良くしてくれる、絞り染の特徴です。
 

 

 
 

有松鳴海絞りは、隣町の知多で作られる知多木綿(三河木綿)に施されていたのが始まりで、この絞り独特な特徴が、少しでも涼しく快適に着こなしたい浴衣にピッタリだったのですね。
 
 
もう一つの特徴の、一人一工程と言う分業制で行うのは、高い完成度を目標としているからだそうです。

やはり70近い種類の絞りの技法を1人の人が習得するのは難しいうえ、絞り以外の下絵や型紙彫り、下絵刷りなどの工程まで請け負う事は中々できないのでしょうね。
 
 

以上が有松鳴海絞りの紹介でしたが、70近い種類を誇る絞りには、まだまだ多くの種類の絞りがあり、その種類の多さも有松鳴海絞りの一つです。
 
 
名鉄有松駅から歩いて5分ほどにある「有松鳴海会館」では、色々な絞りの種類の反物や小物が展示、販売してあったり実演などの催しも行われています。
有松鳴海会館
予約をすれば、ハンカチやのれんやTシャツなどに実際に絞りを体験もすることができるので、自分でオリジナル絞りを体験する事で、有松鳴海絞りの魅力をより深く実感できるのでしょうね。
 
 
他にも、毎年6月には「有松鳴海まつり」も行われ、普段中々そろわない数の反物も店先で売られているので、誰も見たことのない新作の柄に出会えたり、他ではありえないお得な価格で手に入れられたりします。
有松鳴海まつり
 
 
自分の着物の反物探しでも、ちょっと目の保養のためでも、着物を着るお出かけの口実でも、一度訪れてみると新たなる発見ができるかもしれませんね。